シンポジウム開催報告とお礼
2019年6月15日開催のシンポジウム「心肺蘇生教育AHA提言を読み解く」は皆様のご支援のお陰で盛会となりました。
プログラムでは、【解説】「AHA 提言の解説と現場での応用」で、今回のシンポジウム開催の契機となった学術誌Circulationに発表の論文内容の理解を促進し、その応用方略を示しました。続く【対談】「AHA 提言を踏まえた心肺蘇生教育」では、上記の内容を踏まえて、実際にどのような 心肺蘇生術教育の改善が可能か議論されました。【対談】「インストラクショナル・デザイン(ID)から見たAHA提言の意義と問題点」では、日本の医療でID応用を先導する鈴木克明先生、池上敬一先生が医療での教育・訓練上の現状と改善提案などについて自由に語る場を創りました。聴衆の皆さんにはお弁当を召し上がりながら、【対談】「心肺蘇生教育改善を蘇生率改善につなぐには」を聞いていただき、科学的知見を現場実践につなぐ要点を探りました。午後のプログラムは心肺蘇生教育を離れて、医療におけるIDの応用について【事例】として3名の発表とそれぞれに鈴木克明先生がコメントされました。最後は【講演】ではオーストラリアの看護教育専門家のAmy Deasley氏に教育訓練の成果を測定する重要性を示していただきました。
このシンポジウムの内容は、心肺蘇生教育のみならず、医療の多くの教育訓練が抱えている問題として教育・訓練の評価や現場実践の改善の促進などに新たな知見を与えて、患者安全の改善に役立つことと思われます。皆様のご支援がそのような広がりの契機になったことを改めてお礼申し上げます。
発起人
公立西知多総合病院 畔柳信吾
横浜創英大学 岡本華枝
企画者
全日本患者安全組織文化学習支援財団 代表理事 松本尚浩
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趣旨
心肺蘇生教育AHA提言を読み解く
2018年、アメリカ心臓協会(AHA)は学術誌"CIRCULATION"に"RESUSCITATION EDUCATION SCIENCE: EDUCATIONAL STRATEGIES TO IMPROVE OUTCOMES FROM CARDIAC ARREST.(蘇生教育科学:心停止からの転帰を改善するための教育戦略)"と題する提言を示しました。何故、敢えて、この時期に、この論文が発表されたのでしょうか?
世界的に心肺蘇生術教育が盛んに行われるようになったは、心肺蘇生術の国際ガイドライン2000(G2000)が発表された以降です。また、心肺蘇生術のみならず、様々な領域で医療教育・訓練が実施されています。G2000から約20年、心肺蘇生術でどれほどの心停止患者が助かるのか、どうしたらよりよく心停止から生存できるのかなどのデータが集められ、その一部は科学的根拠となり、ガイドラインや心肺蘇生術コースの方法が変化してきました。
しかしながら、今回発表された提言の冒頭には、「何百万人もの一般市⺠と医療従事者が、毎年蘇生術訓練を受けていますが、心停止の患者への最適な臨床ケアの提供には大きなギャップがあります。」と記述され、様々な心肺蘇生術教育が、最終的に心停止患者の生存を改善するというゴールを達成すると想定された理想状態ほどには効果的でないことを認めています。
その上で、この改善策として、「心停止患者が優れた蘇生治療を受けることを確実にするため、学習と維持を促進する実証済みの教育方法を活用することによって、蘇生教育の設計と提供は最適化されなければなりません。」と、「学習と維持を促進する実証済みの教育方法を活用」するよう勧めています。
私達は、学校で教育を受けた体験に基づいて、観たことのある教育を見よう見まねで実践しますが、その効果が低いことが、この心肺蘇生術教育でも「心停止患者が理想状態ほどには助からない」という事実で示されているのです。そんな心肺蘇生術教育をこれからも続けるのは、むしろ徒労ともいえます。
さらには、心肺蘇生術の他の領域で行われている、教育・訓練も「教育・訓練の成果として、患者の転帰は改善しているのか?医療者の現場でのパフォーマンスは改善しているのか?」を改めて問いなおす時期が訪れたことを、今回のAHA提言は示していないでしょうか?
このシンポジウムでは、「学習と維持を促進する実証済みの教育方法」の一例として、この論文で示されている「インストラクショナル・デザイン」の観点から、インストラクショナル・デザインを医療教育に応用して、どのような改善が得られるかを示しながら、聴衆の現場での教育実践を改善する契機を目指しています。
心肺蘇生術教育のみならず、医療での教育に関わる方々のご参加をお待ちしています。
プログラム
09:40~10:00 受付
10:00~10:05 開会挨拶
[総合司会] 横浜創英大学看護学部 山本佳代子
・全日本患者安全組織文化学習支援財団 松本尚浩
10:05~10:50
【解説】
AHA 提言の解説と現場での応用
・全日本患者安全組織文化学習支援財団 松本尚浩
10:50~11:30
【対談】
AHA 提言を踏まえた心肺蘇生教育
[座長] 医療法人須崎会高陵病院 川渕洋志
・岐阜大学病院高度救命救急センター 名知 祥
・全日本患者安全組織文化学習支援財団 松本尚浩
11:40~12:30
【対談】
インストラクショナル・デザインから見たAHA提言の意義と問題点
・熊本大学教授システム学研究センター 鈴木克明
・日本医療教授システム学会 代表理事 池上敬一
12:40~13:25
【対談】
心肺蘇生教育改善を蘇生率改善につなぐには
― LOCAL IMPLEMENTATIONを模索する ―
[座長] 医療法人あい ハンディクリニック 宮道亮輔
・東京慈恵会医科大学救急医学講座 佐藤浩之
・全日本患者安全組織文化学習支援財団 松本尚浩
13:40~14:55
【事例】
インストラクショナル・デザインの医療教育への応用事例
[コメンテーター]
・熊本大学教授システム学研究センター 鈴木克明
[スピーカー]
・山口大学病院先進救急医療センター 河村宜克
・小牧市民病院看護局 河邉紅美
・横浜創英大学看護学部 岡本華枝
15:05~15:55
【講演】
AHA 提言に基づく心肺蘇生術教育応用提案
Implementation of RQi to improve and maintain CPR performance(通訳あり)
[座長] 全日本患者安全組織文化学習支援財団 松本尚浩
・PROGRAMS AND EDUCATIONAL SERVICES MANAGER ASIA PACIFIC,
LAERDAL MEDICAL AMY DEARSLEY
15:55~16:00 閉会挨拶
・公立西知多総合病院 畔柳信吾