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【第3の話題】心肺蘇生術は学べるのか?



結論として、「学べた」という意味を「行動が変わった」とすれば、心肺蘇生術コースを開催しても、蘇生率が向上するために「コース参加者の行動が変わった」と示すのはとても難しいでしょう。また一方で、蘇生率向上をゴールにすると、私たちは努力しても、その甲斐なかったとがっかりする結果しか得られないかもしれません。そこで、蘇生率向上ではない、別のゴールを設定すれば、心肺蘇生を学ぶ仕組みに「成果が現れた」と、関係者一同で喜ぶことができるかもしれません。それが、「行動が変わった」というゴールです。 私たちが学校で学んだ頃体験した教育の基盤になっていた理論に比べると、現在の教育に関する理論はとても変化しています。 私たちが慣れ親しんだ教育には、「ある教え方をすれば、学習者は何か変わるだろう」という期待があったのでしょう。その効果を高めるために、「何日以上(何時間以上)出席すればよい」とか「試験で何点以上(上位何名以内)であれば合格」などの仕組みが用いられました。でも私たちは学校を卒業だけで、実際の自分の居場所で、それ以上学ばなくてもなんとかなることはほとんどありませんし、心肺蘇生術コースの参加者が、現場で傷病者を確実に助けているわけでもありません。 教育が「行動が変わったか」に焦点が置かれると、かなり異なる状況が起こります。 一般市民の方々は、家庭内や街中で傷病者に遭遇したとき、ただちに救急車や助けを呼び、救命処置を実施するような行動ができるでしょうか? 医療従事者にはさまざまな職種がありますが、そのような医療従事者が、職場で傷病者に遭遇したときに、適切な心肺蘇生術ができるでしょうか? 現場で「行動が変わる」のが教育という捉え方であれば、現場で行動を変えることができないとすれば、どうすればできるようになるかを探究することが重要です。 例えば、高齢になっても自分の歯を保つことが健康の鍵とされてます。歯を保つには、歯の衛生状態を適切にする必要があります。通常は歯を磨きますが、磨いた後の状態は測っていないことが一般的です。歯垢が残っているかどうか染めることで、自分の歯磨きの状況データを得て、これを自分の歯磨き行動改善につなぐようなフィードバックの仕組みがあれば、行動を変える可能性が高まります。 心肺蘇生教育では、自分の胸骨圧迫の速さや深さがどのような状況か、測定して自分にフィードバックする仕組みを工夫すれば、胸骨圧迫の速さ・深さを適正化するような「行動が変わる」仕組みになるでしょう。 例えばある医療機関の全職員が胸骨圧迫の技能を習得していれば、全職員が胸骨圧迫技能を習得していない他の医療機関に比べて、蘇生率は高いのでしょうか?このように、組織全体での胸骨圧迫の技能の高さと蘇生率の結果がすぐにはわからないので、医療機関の管理者としては、職員全員が胸骨圧迫技能を習得している状態にするための仕組みを作る動機付けが低くなってしまうかもしれません。 しかもこれらのことは、教育だけでは変えられそうにありません。 このように、教育を「行動が変わる」という観点で見つめ直すと、そこにはさまざまな壁がありそうです。今回の「蘇生教育AHA提言」が投げかけたことは、「このまま心肺蘇生教育をやっていてもいいのか?」という出発点を示しましたが、「このようにすれば蘇生率が向上する」という明らかな道筋を示してはいません。 私たちは、教育の本質をとらえなおし、教育だけでない方法も取り入れながら、傷病者が救われる社会を創るという課題に向き合うスタート地点に、改めて立っているという状況です。 今回の「蘇生教育AHA提言を読み解く」では、このような複雑なモンダイについて、参加者の皆さんと答えを模索する場を創ります。